原点を振り返る⑩

手横編み機で初・編地出し

ニット技術研究課

入社一年目の夏頃、ニットテキスタイル担当としての業務がどんどん増えて、私は忙しくも充実した毎日を過ごしていました。

糸商との商談や各色糸の発注まで任せて頂き、とてもやり甲斐を感じていました。

と、ここでまた新たな業務が・・・!

 

それは「試編み」といって、Pick upした糸を1kg(1コーン)購入して、編んでみることです。

 

よく【糸美人】なんて言われるのですが、糸で見たら可愛いのに編んでみたらイマイチだったりイメージとかけ離れてたり・・・なんて事がたまにあるんです。特にファンシーヤーン(形状が変わった糸)等は、編んでみないとどんな風に仕上がるかわかりません。

そもそも糸を見て編地を連想するのは非常に困難で、相当なキャリアがいります!特にニットは何ゲージにかけるかで全く編地が変わってしまいます。

 

例えば、毛番手(糸の太さ)で一番メジャーな 2/48(ヨンパチソウシ)を何本引き揃えて編むか?1本では薄い編地になるし、5本では厚い生地になります。

又、編み方・組織によっても全然違う表情に仕上がります。

 

そこで、まずサンプル糸として購入して、試編みして、イメージが合えば次の展示会に採用決定!!という流れになります。

今までは、ニッターさんが工場の空きのある時に好意で編んで下さってましたが、私が編めたら早いし、ご迷惑をお掛けしなくて済むので、是非勉強も兼ねてやって欲しいと言われました。

 

『う・嬉しい~!!』

 

今まで糸を見ても、どうしたら編地になるのか?全くわからなかった。これで謎がまた一つ解決するぞー!笑

 

 

そして、テキスタイル担当の上司からイタリアのPitti Filati という世界的に有名な糸の展示会でPick upされたサンプル糸を預かって、ニット技術研究課という部署を訪ねました。

そこには、「ニットの神」と呼ばれる、ニットを知り尽くしたW課長とMさんがいらっしゃいました。

 

私が持ってきた糸を見て、

<M課長>

「面白そうな糸ね~!さすがNちゃんだわ~!!」

<私>

「え!うちのカリスマコーディネーターをご存知なんですか?」

<W課長>

「同期ですよ!」

<私>

「げげげ~~!!!!!」

 

な、なんて優秀な方の揃った年代なんだ~!!!!!

 

 

そのニットの神に付きっ切りで、私は手横といういわゆる手編み機で、編み方を教わりました。一番ベーシックな天竺からゴム地・リブ・片畦等・・・ほぼ編めるようになりました。

 

 

ニット技術研究課の方は、快調に編み機の音が、シャ シャ シャ ガガ  と変な音がしたら、見てないのに遠くから

「編地のしたの重り付けてる???」

等、何が原因で起こったトラブルかがわかるくらいの達人です。

そして何より、ニットが大好きな方!お話しているだけで私もどんどんニットの魅力に取りつかれていきました。

 

ブランドに所属するデザイナーとはまた違った視点で、糸と組織・糸と編み機・糸とニッターとの相性や、その糸の始末の仕方や予測されるトラブルの対処法をブランドに伝授したり、取引先と連動して問題を解決したりする、ニットのプロフェッショナルな方々。

歴史あるワールドのニットは、そういう方々がいるからこそ、成り立っているんだと思いました。W課長は「技研はブランドの縁の下の力持ちなの。」とよくおっしゃっていました。

W課長はまた人格も素晴らしく、私はずっと一番慕っていました。そのW課長の人格だからこそ、カリスマコーディネーターのような方でも、ニット技研からの意見や忠告を受け入れていたと思います。

これが、もし知識が豊富で最もな事を言ってても、信頼出来ない人だと誰も聞く耳持たないし、それどころか、その部署の存続すらあり得ないと思います。

 

『デザイン』という切り口と、『物性』という切り口。対極なのかもしれませんが、どちらも経験とセンスを要します。誰でも出来るものではありません。

 

こんな人財を大勢輩出したワールド。当時は人財育成にも大変力が入っていましたし、環境も整っていました。学校で習った事は基礎中の基礎で、企業が専門職を大切に育成していく時代でした。今や跡形もありませんが・・・。

 

 

・・・ 続く。

 

 

 

↓新人時代に編んだスワッチ。20年経つけど今でも宝物です♡

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